結婚式は必要ない。
結婚式に憧れる人がいる反面、そんな意見だってあります。僕自身、結婚願望はあるものの、結婚式はしなくたっていいものだと思っています。結婚式に携わる人間として、今回は朝井リョウ氏の発言をきっかけに僕が感じた今の世の中の結婚に対する流れや背景について考察してみようと思います。
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朝井リョウ氏の発言はみんなの「うっすら」を「ハッキリ」にした
ファーストバイトも「なんでこんなに嫌なんだろう?」って今まで思ってたんですけど、あれって「男の人が稼いできたお金で、女の人が料理を作って食べさせる」って意味が奥にあるんですよね。僕らは共働きだし、私は料理を作ってほしくて彼女と結婚したわけではない。その行為をすることによって、その思想を自分たちが背負ってると思われるのも嫌だった。
情報源: 朝井リョウ、結婚発表 「結婚式嫌い」を公言する平成生まれの結婚観
これ、みんながなんとなく感じていた部分だと思うんですよね。引用元の記事は面白いので興味があれば全文見てみてください。僕が思うに、これはみんなが感じていた結婚式に対する疑問をハッキリ形にしたんです。「それって意味あるの?」って。
意味がなかったり、形だけだったり、自分達の思想と違う内容を表明するような行為ならしたくない。ってことですよね。
これは反面、今の世代の人々が「意味」を結婚式に求めるようになっている傾向なんだとも思います。自分達が共感できる、納得できる結婚式ならしてもいい、と。
僕達の価値観のルーツは「物語」であり「文化」
まずそもそも、僕達が結婚に対して「いいものだ」と言い出す根本に触れたいと思います。ためしに、ちょっと思い出してみてください。シンデレラのエンディングってどんな感じでしたっけ?シンデレラが王子様と結婚してハッピーエンド。ですよね。白雪姫は?アラジンは?ラプンツェルは?そう、全部結婚がハッピーエンドですよね。ディズニーを連発してしまいましたが、それだけじゃありません。実写映画だって、恋愛が絡むとだいたいの「お決まり」としてラストでは結婚式のシーンが多いですよね。出会って、ハプニングがあって、ライバルが現れたり危機に陥ったりして、乗り越えて、もうだめかと思ったけど・・・最後には教会の鐘が鳴ってヴァージンロードの奥には・・・的な展開がたくさんありますよね。
ドラマや映画で結婚がハッピーエンドとして使われるのには理由があります。それは僕達の文化に埋め込まれるレベルで結婚が幸せなものだと言い伝えられているから。日本で言ったら「古事記」のような神話の時代から結婚は登場します。イザナギとイザナミという神様が日本の原型を作り出すんですけど、その直後に二つの神様は結婚しています。西洋でも、ギリシャ神話の神様同士が結婚したりしますし、インドの神様だってそうです。世界中の最も古い神話の神様たちですら、結婚しているのです。ある意味、神話というのは一番語り継がれた物語で、その国の文化と同化している価値観と言っても過言ではありません。
普段は意識していませんが、僕達日本人が「もったいない」と思うのは「八百万の神」の考えがベースにあるんだそうです。どんなものにも神様が宿っていて、粗末するとバチが当たるぞ。そんな考えが「ものを大切にしなさい」「もったいない」につながるんだとか。要するに、僕達が「当たり前」だと思っている価値観というのは先祖が代々形成してきた「文化」をベースにしているってことです。同様に、キリスト教圏では、神の存在を教えずに倫理観を教えることができないそうなので、やはり価値観のベースは聖書という神話であり物語です。
物語は語り継がれる中で形を変えますが、どんな形であれ結婚はいい形で伝えられています。それほど人間にとっては原始的な欲求に根ざしている状態なんでしょうね。
バブリーな価値観が時代に合わなくなった
「結婚」がいいものだ、という根本の話はできました。ここからは、なぜ「結婚式」が嫌がられる場合があるのかを論じていこうと思います。
大きな原因は「バブル」だと思います。先に書いた通り文化や伝承による影響はベースにありますが、僕達自身にもっと直接的に影響を与えているのはメディアです。具体的に言えば「テレビ」です。80年代終わりから90年代くらいにトレンディドラマと呼ばれるドラマが流行ったりしたころ、やはり結婚が描かれる事が多かったんです。当時はテレビが絶大な影響力をもっていたので、みんなそれに触発されたんですよね。流行ったドラマや、自分が感動したドラマに影響を受けてしまうわけです。そこで描かれているのがちょうど今の結婚式の原型になっているような結婚式だったんですね。式場にある真っ白なチャペルで挙式して、ブーケトスして、ケーキカットして、ドライアイスの演出があって、ゴンドラで入場・・・みたいな!バブリーですね!特に後半の二つ!(笑)
まあ、そんな感じで影響されて「憧れて」それが需要になったんですよね。同時期に結婚式業界も大きくなったので、こういうスタイルで売り出せば儲かったんです。なので一気に結婚式は画一的なものになりました。そして、今結婚する世代の人が、この頃結婚した40〜50代が制作したドラマや創作物に影響を受けているわけです。だから、小さい頃に見たマンガや思春期に見たドラマで描かれている結婚式に影響されて結婚式に「憧れ」ます。
ちなみに、憧れというのは立派な理由だと思います。小さな女の子が綺麗なお嫁さんに憧れる。というのは「かわいくなりたい」「キレイになりたい」っていう女の子の夢だと思うので、もはや本能とも言っていいほどの強力な欲求です。心がそれだけの価値を感じているのですから、本人にとってはこの上ない価値があるんです。
でも、今の人達は影響元がテレビだけじゃないですよね。ネットが発達してテレビが衰退して、「みんなで同じテレビを見る」文化はなくなりつつあります。Netflixで好きなドラマをみることもできるし、Amazonビデオで昔の映画を見てもいいです。好きな時に好きなコンテンツを消費する時代になったわけです。そうなると、影響を受ける源流が変化するので、多用な価値観が育つのも至極当然といえます。
ましてや、バブルほど今はお金がありませんし、浮かれてもいません。「いらないものにお金は払いたくない」という考えにもなります。そのとき「いらないもの」の判断は何かといえば「意味があるか、ないか」だと思うのです。だから、結果だけを見るなら、形だけを作ったようなお決まりの結婚式に疑問を持ったりするのは時代の流れとして当たり前の動きとも言えます。その居心地わるさが「結婚式嫌い」になるのではないでしょうか。朝井リョウ氏は端的にそれを明らかにしてくれたので、みんなのこころがスッキリして共感が集まった。といえると思います。
「憧れ」以外に「意味」を求めて結婚式をするなら「人前式」がオススメ
せっかく結婚式のカメラマンが書いている記事なので、意味が欲しい人へのオススメ結婚式を紹介しておきます。それは「人前式(じんぜんしき)」です。最近登場したように紹介されることも多いですが、実は日本で最古のスタイルの結婚式とも言われているそうです。周りの人達に結婚を誓って、感謝を伝えて、これからもよろしくね。をする式です。ほら、意味ありませんか?
神様とか関係ないんです。宗教儀式でもない。ただ、「結婚しました。ありがとう。よろしく。」の内容なんです。周りのお世話になった人に感謝を伝える場や、みんなで祝うイベントとしての結婚式なら充分に意味があるのではないでしょうか。
また、挙式は「気持ちを作る」上でもとても効果があります。学校を卒業式なしでも卒業できるように、結婚式なしでも結婚できます。婚姻届を出すだけですから。でも、それじゃあ「この日から私たちは夫婦になった」っていう気分の切り替えが出来なかったり、覚悟が固まらなかったりします。だから、みんなに宣言したりすることで気持ちを作っていくことが大切なんじゃないかな。と思います。
結婚式の「準備」も大事なイベント
結婚式の準備はとにかく喧嘩します。今までたくさんの新郎新婦を見てきましたが、喧嘩してない人なんてほとんどいないくらいです。でも、これが大切だと思います。このぶつかり合いを通して相手のことを知る事ができますし、自分自身の知らない一面を知ることも出来ます。今後2人で生活していく中で必要なぶつかり合いなんじゃないでしょうか。なんてね。ちなみに僕は奥さんに怒られてばかりです(笑)
経験としての結婚式「深く考えない」
僕が撮影したお客様、お二人とも50代半ばという大人な年齢で結婚されたカップルの方が言ってました。「結婚式って一度してみたかったんだよね」「だって楽しそうじゃん」「一回くらい経験としてやっておくだけでも大事だよ」って。たしかにそうだと思います。普通に生活していたらできない経験ができます。ドレスを着て、みんなの前に立って、親への感謝、ゲストへの感謝を伝える。写真もいっぱい撮られる。珍しい経験ですよね。意味とかごちゃごちゃ考えないで、「楽しい経験」としてやるのも充分いい理由なんじゃないかな。って気もするんです。
別の新郎新婦ですけど、当日まで結婚式を嫌がっていた新郎が、いざ結婚式になったら一番楽しんでいた。なんてケースもあります。彼いわく「お酒飲みながらみんなに囲まれて結婚式できるのめっちゃたのしい」だそうです(笑)
まあ、めでたいことですから、細かいとこなんて考えずに「気楽にお祝い」ができればいいのかもしれませんね!
いい結婚式の参考になれば幸いです。
KOBATONE 小林嘉明