いざ、結婚写真を注文しよう!という時に、ちょっと疑問になるのが、「プロとアマチュアで写真ってそんなに違うものなのか?」ってことですよね。プロと素人が変わらないなら友人にでも撮影してもらえばいいし、プロならではのポイントがあって、納得できるなら快くお金も払えるというもの。しかし、これはとても難しい問題です。プロでも答えにくい質問なんです。でも、ここを知っておけば写真やカメラマンを選ぶ際の心強いヒントにもなるでしょう。そこで今回は、プロカメラマンがアマチュアとどう違うのかに焦点を当てて紹介していきましょう。
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プロカメラマンに免許や資格は必要ない
まず、プロと一口に言っても非常に幅が広いです。全然ダメなカメラマンもいれば、ものすごく良いカメラマンもいます。なぜなのか?それは、カメラマンになるのに資格審査など、能力を規定するものが何もないからです。実はカメラマンには誰でもなれます。ある日突然、「私プロカメラマンです。」と宣言すれば、その瞬間にあなたはプロカメラマンなのです。
勘のいい方はこう思いましたね?「あれ?それってアマチュアと変わんないんじゃないか?」って。そう、全くその通りです。資格的に言えば、アマチュアとプロを隔てている壁はないんです。では、どこが違ってプロはプロと名乗っているのでしょう?ひとつずつ見ていきましょう。
写真を仕事にしている人=プロ
プロだと名乗った人を全てプロだと定義して話すと、話がとても複雑になります。「俺は気持ちはプロだぜ」っていうカメラ少年もいるでしょうし、その心意気を表すためにあえてプロと名乗っている人も世の中にはいるでしょう。なのでここでは、「写真を撮ることを仕事としている人」を「プロ」と定義して話します。
俗説検証「ご飯を食べていればプロ」は本当か?
よく、ご飯を食べていればプロ、みたいな言い方がありますよね?どんな業界でも、その仕事で得たお金だけで食べていける人をプロとして定義したりします。ですが、これがカメラマンに当てはまるかと言えば、あまり当てはまらない気がします。別の仕事の副業をしている場合などもありますし、最近は働き方が自由です。それこそ反対に、「アマチュアでお金を稼げている人」もいるんじゃないでしょうか?従ってこのポイントはあまりあてに出来ないと思っておきましょう。
「プロ=写真が上手い」ではない
「プロ級だね」なんて言葉があるくらいですから、「プロは写真がうまい」という認識が世の中にはあると思います。しかし、本当のところはと言うと、全員のプロが上手いわけではありません。プロであるということは、お金をもらっているということです。お金をもらっているということは商売であり、商売の基本は需要と供給です。そう、つまり、プロカメラマンに求められるのは、上手さよりも需要を満たす能力なのです。
需要を満たす写真
まだちょっとピンとこないかもしれませんね?「上手い」と「需要を満たす」は、一致しないこともあります。例えば、お金を払ってくれる人(クライアント)が犬の写真を欲しがっていたのに、めちゃくちゃ可愛く撮れた猫の写真を渡しても意味がありませんよね。たとえそれがどんなに上手く撮れていてもです。
プロより上手いアマチュアもいる
そういう意味では、プロよりも「上手い」アマチュアもたくさんいます。要するに、写真がとってもきれいに撮れるだけなら、趣味で撮っている人でも十分に可能だからです。
プロは「だいたい」アマチュアより上手い
運さえあれば写真は上手く撮れる
あなたも、携帯電話やスマホのカメラで、「理屈はわからないけど」キレイに写真が撮れたことありませんか?「いい写真だね」なんて仲間内で話した経験あるんじゃないでしょうか?ありますよね?でも、それってなんで上手く撮れたんでしょう?わかりますか?
おそらく、言葉にして説明するのは難しいと思います。安心してください。わからないのが普通です。しかし、それを理論づけて、再現できれば、また同じように写真を撮ることができるはずですね?その知識を様々な場面にマッチしたパターンでストックすれば、色んな場面でうまく写真を撮影できるはずです。つまり、「確実性」が高まります。
確実性と広い知識
クライアントの要求に応えられることが求められるプロカメラマンには、この「確実性」が大切になります。お金をもらうからには、より高い確率で要望の内容を達成する必要があるのです。そのためには、たくさんの知識と経験が必要になります。カメラの知識だけでは足りません。「カメラを扱う為の知識」なんて前提条件なんです。例えば結婚式を撮影するなら、結婚式の知識が必要になります。結婚式の流れや、神社や教会のしきたり、披露宴会場でやってはいけないこと、やるべきこと、新郎新婦とのコミュニケーション能力、スタッフとのやり取り能力等、挙げていけばキリがないほどの能力が必要になります。
こういった能力と経験の積み上げにより、結果として、「ちゃんとやっているプロ」であればおおよそのアマチュアよりは上手いはずです。
あなたが飲食店へ行く理由
突然ですけど、お米、炊いたことありますか?きっとありますよね?写真の話はわかりにくいので、ここでは料理に例えて話をしたいと思います。料理にも、プロがいますね。料理研究家、評論家、そして料理人の方々です。さて、あなたは自分でも作れる料理を、どうしてお店で食べるのでしょうか?答えは簡単ですね。プロの味がおいしいからです。ほかにも、自分で作る分の手間が浮くことや、難しい料理に対する技術料としての料金を支払っているということでしょう。
プロは絶対数
優れた料理人はなぜ料理が上手なのか、その理由は色々あると思います。しかし、もっとも間違いないのが、「こなした数が多い」ことだと思います。単純に料理した数が多いから彼らの料理は美味しいのです。一般的な家庭で自分や家族の料理を作っているだけでは一日三食が普通です。だけれど、彼らは一日に100食作ったりします。これでは作業に対する経験値が違うのは明白です。包丁さばきや火加減等、誰でも100食作ればうまくなるというもの。たくさんやれば、うまくなるんです。
一万時間の法則
「一万時間の法則」というものを知っていますか?どんなことでも一万時間その作業に取り組めば、いっぱしのプロになれる、という法則です。この言葉はプロのこなしている数を上手く表している言葉だと思います。
常に微調整して成長を続ける
数をこなすだけではなく、一つ一つに対する「反省」も必要になります。例えば写真では、カメラマンは撮影だけではなく、その撮影データを厳選したり、修正したり、仕上げる作業を行います。これは、料理人が作った料理を味見しているのと同じことですね。今日はしょっぱい、水気が多い、火の通りがあまい、等、自分の味を確かめて、更に美味しく作るために微調整をかけていくのです。
カメラマンによって大きく差がある部分ですが、一例として、昨年、僕は216,400枚の写真を撮影しました。つまり年間で約22万枚の写真を撮ります。それだけたくさん撮影して、それだけたくさんフィードバックを得ているのです。単純にその数が多い、というのがプロの最大の特徴ではないでしょうか?仮に、これを読んでいるあなたが年間に20万枚以上写真を撮って編集しているなら、プロになれると思います。
その道のプロにお金を払う理由
一般的な8時間勤務の仕事で 一万時間をある作業につぎ込もうと思うと、3年ちょっとかかると言われています。もしあなたが料理人と同じ腕前で料理を作りたいのであれば、調理を仕事にしても3年かかります。 写真でも3年かかります。写真にしても料理にしても、「自分たちでもできるんじゃないか?」と考える人はよくいますが、同じレベルでやろうと思うのであれば最低でも三年かける必要があると思っていいでしょう。もちろんそんな人はいませんよね?三年を費やすぐらいならお金を払って、その時間を費やして研究しているプロにお願いしてしまうのが賢いやり方だからです。
能力が高いほど評価基準が細かい
こなした絶対数が基本であることがわかったところで、その次はその「濃さ」が問題になります。ここまではプロとアマチュアの違いに近い話でしたが、ここからはプロ同士の能力の違いに迫っていこうと思います。
素人の基準は大きい
何事も上手い人と下手な人がいますが、両者の違いは感覚の違いであると言えると思います。言い方を変えれば認識の違いとも言えます。例えば一般的な人であれば、料理を食べた時の感想は「うまい」「まずい」に始まり、「しょっぱい」「甘い」といった程度の評価まででしょう。評価する軸の数が少ないのです。
料理評論家のトレーニング
昔聞いたことがあるのですが、料理評論家は毎日自分でお米を炊いて食べるんだそうです。ただ、その内容が普通では出来ない内容です。彼らは、毎日米の状態をチェックして、銘柄や湿度はもちろん、研ぐ方法、水の種類、温度、浸水時間、炊き方に至るまで全てを毎日ほとんど同じようにやるんだそうです。そしてそれを同じように食べて評価するんだそうです。毎日ですよ!ちょっと一般家庭では無理ですよね。同じように作っても少しづつ差は出ます。彼らはそれを感じ取ります。それを続けることで日々の微妙な違いを感じる味覚をトレーニングしているそうです。
細かい評価
料理の評価の話に戻りますが、料理の評論家レベルであれば、評価の細かさが段違いに正確です。一般人の大雑把な評価に比べて表現の幅が異常に広いですよね。わかりやすい例えは、ソムリエが料理の味を評価するときも非常に多彩な表現を使います。「枯葉の香り」や「十円玉の匂い」などおおよそ料理には関係のないような要素まで登場させて料理を評価することができます。
それは彼らが日頃から評価するポイントをどんどん細分化しているからに他なりません。一般の人が甘さ、辛さ、塩気等の10個くらいの基準で採点するような料理の点数を、彼らは100や200ぐらいの多彩な基準で採点できるのです。
料理の話ばかりだったけど。。。
これを写真に置き換えると、全く同じことが言えます。 普通の人に写真を見てもらった場合、「素敵な写真」とか「ダサい写真」といった「大雑把な評価」になると思います。しかしプロカメラマンに同じ写真を見せれば、「シャドウのディテールが出ている」とか「コントラストの抜けがいい」など、評価が細くなっています。それは彼らが毎日毎日撮影を行って、毎日毎日データを作っていく中で蓄積された評価の基準が存在するためです。
上手い人ほど、評価する軸の数が多い
覚えておいてくださいね。
上手いプロと下手なプロの差
もうなんとなくわかったかもしれませんが、上手いプロと下手なプロの差は、一回一回の濃さの差です。例えば僕は22万枚の撮影をしていますが、この22万回のシャッターを何も考えずに撮っているのと、毎回反省して撮影しているのでは天と地ほどの差があ開きます。
撮影に対する考えの違い、マインドセットの差
そしてその根っこになっている部分が、マインドセットや哲学と呼ばれるものです。要するに、撮影をどういう考えでやっているか、という話です。写真には写りませんが、確実に現れる部分です。僕は技術よりも大切だと思っています。特に結婚写真では、「新郎新婦のために」という気持ちがなければ、撮影の時に動けません。
動くカメラマン、動かないカメラマン
考えてみてください。新郎新婦の写真を撮るためには、カメラマンは新郎新婦が撮れる場所でカメラを構えている必要がありますね?そのカメラの位置にカメラマンが動く必要があります。ゲストが撮りたいならゲストが見える位置、小物やアイテムでも同様です。
実は、写真は一部の必ず撮らなければ行けない写真を除けば、撮るも撮らないもカメラマンの自由なんですよ。例えば、新郎新婦がゲストと談笑しているところがそれにあたります。規定上撮らなくても良いんです(逆に、必ず撮れるという保証ができないため)。
つまり、カメラマンの気持ち次第です。そこで、撮ってあげたいと思うか否か。撮ってあげたい、残してあげたい、という気持ちがなければ、カメラマンの足は止まってしまいます。カメラを構えることもないでしょう。というよりも、本当はその一歩前の段階で差が付きます。
そもそも気持ちがないカメラマンは、素敵な場面を発見できない。
どういうことなのか、更に掘り下げます。
素敵なところを探す能力
だんだん僕の写真論みたいになってきてしまいましたね。一般論よりも、ここからは僕の考えが強くなってきます。ここまで読んでくださってる優しい方はもう少しお付き合いください。
同じ場所にいても違う写真になる
ある程度自分のカラーを持ったカメラマンが撮影をすると、面白いことがおきます。同じ場面や、同じ結婚式を撮影しても、違う撮影内容になるんです。それは、二人のカメラマンで見ている内容が違うからです。写真は突き詰めれば、「そのカメラマンがどんなふうに世界を見ているか?」というところに行き着きます。なぜなら、撮影能力がしっかり体の一部になれば、撮影者の見た世界を表現するものに近づいていくからです。
どう世界を切り取って残すかは「気持ち」がベース
その時に大切になるのが、その人の気持ちです。カッコつけた言い方だと「感性」でもいいかもしれませんが、僕は気持ちだと思います。「素敵だ」と思って撮影している人と、業務的に惰性で撮影している人が同じ挙式を撮影すると、大きな差が開きます。もちろん、ある程度腕のあるカメラマンなら、技術的にきれいな写真を撮ることは出来ますが、「いい場所をどれだけ探し出せるか?」という大切なところで差がつきます。
意識するということ
人間は意識しているのと、意識していないのでは、大きな差が生まれます。例えば、「昨日の天気はどうでしたか?」と訊かれてすぐに出てきますか?天気に意識が向くような生活をしていると出てきますが、室内で完結する生活をしているとなかなか答えられないと思います。それと同じとことです。「どれだけたくさん素敵なことが結婚式場にあるのか」を探しながら撮影しているカメラマンのほうが圧倒的に良い写真が撮れます。
本当に感動するには心を水晶玉のように透明でピカピカに磨き続けないといけない
野村浩司(写真家)
僕が大好きなフォトグラファー、野村浩司さんが残した言葉です。とっても感銘を受けました。
カメラマン選びであなたができる3つのこと
最後に、カメラマン選びであなたができることを、ここまでの内容を踏まえてまとめましょう。
1,あなたの感性を信じよう
いきなりですが、あなたの直感を信じてください。先述の通り、カメラマンはうまくなるほどどんどんその人自身の「ものの見方」に近づいた写真になっていきます。これは言い換えれば、「人間性が出ている」ということですし、「好みや考え方が端的に現れている」ということです。
あなたが写真を専門的に勉強しない限りは、そこから具体的な内容を拾い上げることは出来ないでしょう。しかし、写真を見た時にあなたが「いい」と感じるのであれば、それはつまりあなたと感性が近いカメラマンなのです。だから、あなたが良いと思えるカメラマンはあなたの直感で探し出すというのもありです。なにより、自分が納得できていなければ、あとで後悔したりしますから。確信を持てたものを頼むと良いでしょう。
2,数字を見てみる
たくさん撮影している、いろんな会場で撮影経験がある等の情報はある程度アテになるでしょう。信じ過ぎはダメですが、数をある程度こなしている経験値というのはバカにできません。
3,情報を提供しているカメラマン
例えば打ち合わせや、パンフレットや、ウェブサイトで情報を提供してくれているカメラマンもいいでしょう。やっぱり写真を見るだけでは、カメラマンがどんなことを考えて撮影しているかまではわからないものですから、ウェブ上のコンテンツなどを利用して自身の考えを発信しているカメラマンにするのもいいでしょう。理由を聞いて写真の意味や価値がわかると、同じ写真でもより良く感じます。
写真が気に入って、更に考えも気に入れば、それはあなたにとって「価値のあるもの」になっているはずです。
いかがでしたか?ぜひ写真選び、カメラマン選びの参考にしてみてくださいね。
KOBATONE 小林嘉明